異世界

異世界へ旅をする物語は少くない。何らかの超常的な力でファンタジーな世界やパラレルワールドへ移動して冒険する。古典的ではあるが、最近は減ったかというとそんなことはない。今でもよくあるパターンのひとつだ。しかし、十把一絡によくあるパターンと断じるのは芸がない。異世界ものについて考察してみよう。
まず、王道パターンの要素を箇条書きしてみる。

  • 主人公は普通の人間である(得手不得手に特徴がある場合もある)
  • 移動先の異世界には魔法が存在する
  • 主人公はその異世界においては何らかの重大な使命をもっている(大げさな伝説や伝承が絡んでくる)
  • 元の世界へ帰るためには使命を果さなければならない

これらは使い古されたパターンだ。例を挙げればきりがないが、私がすぐに思いつくところでは「マジックナイト レイアース」「神秘の世界エルハザード」「天空のエスカフローネ」「ゼロの使い魔」等があてはまるだろう。
もちろん、それぞれの要素には理由もある。主人公は普通の人間でないと読者の共感を誘うことはできないし、魔法でもないことには世界間を移動する超常的な現象を説明できない。また、主人公が動かないことには物語にならないので、何らかの目標を与えなければならないというのももっともなことだ。その目標として元の世界に戻ることを挙げるのは妥当なところだろう。その前のワンステップとして大きな使命で盛り上げるのは演出上の措置だ。なにより、同じパターンも徹底的に使い古すと様式美に昇格したりする。
そこで、この様式を逆手にとってあえて様式を覆す演出もある。例えば元の世界へ帰れないままにすることで郷愁を強調する、あるいは元の世界へ帰らないという決断をすることで意思の強さを強調する、といった方法である。例えば前者は「十二国記」、後者は「天は赤い河のほとり」が該当する。
他の演出としては、元の世界と異世界の二者択一ではなくするというのもある。例えば「なりゆきまかせのストレンジャー」がそうだ。これは主人公にとって世界間の往来ができて、最後もそのままである。主人公はたいそうな理由もなく異世界に呼ばれ、いつのまにか重要人物になったりするものの全体的には日常の延長にある緊張感でしかない。結局のところ、主人公は傍観者だからだ。時には日常のヌルさが冒険への憧れよりも物語になりえるのかもしれない。
「幽遊白書」では更に主人公等だけでなく、誰もが異世界(魔界)との往来ができるようになりかかっているところで終わる。言い換えれば、これは異世界へ行くのではなく異世界の側から歩み寄っているとも言える。主人公に感情移入させるよりも、よりインパクトのある形で異世界を感じさせる面白い演出だ。同作者による「レベルE」では異世界ではなく異星ではあるが、最後付近のコマで異文化と融合した後の地球文化の様子が描かれていて、テーマとしてはほぼ同じ。
以上、思い付くままに異世界ものを挙げつつ特徴的な箇所を抜き出してみた。こうして考えると定番といってもバリエーションが尽きることはなさそうだ。だからこそ定番パターンになってるのだろうが。
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