ライトノベル「二四〇九階の彼女」を読んだ。この作品世界においては、世界は無数の階層の重なりで出来た塔の形をしている。そして、各階層はアントロポシュカと呼ばれる機械によって管理されている。アントロポシュカは前時代の高度な文明が残したもので、人間の幸福を追求するように出来ているが、長い年月の内に様々な綻びが生じている。そのような世界背景の中で、一三〇二階のサドリは外を目指して塔を下っていく。
各階層ごとに全く違う文化があるわけだが、いずれの場合でもアントロポシュカが人間の幸福を追求した結果として成ったものであることがこの作品の重要な部分であろう。結局のところ、幸福というのは実に多くの矛盾を孕んでいる。各階層が狂っているのはある意味でアントロポシュカの「苦悩」と解釈することができるかもしれない。
さて、主人公が全く異なる文化に接しながら旅を続けるというのは「キノの旅」と似た主題であると最初は思った。だがそうではない。
キノの旅」に登場するそれぞれの国は異質な文化をもっていて、非常識だったり、時には狂っていたりはするものの、住人にとってはそれがあるがままの姿だ。旅人であるキノも善良ではあるが非情でもあるとても人間的な存在として描かれている。序盤でキノが旅に対するスタンスとして語り、作品のキャッチコピーでもあるフレーズにこうある。

世界は美しくなんかない。そしてそれ故に、美しい

何もかもを受け入れて、世界をみつめようとするキノにとっては旅が目的地なのであろう。
それに対して、「二四〇九階の彼女」ではヒトは機械に管理されている。それは整然としているが、そこに感じるのはイビツさである。これはちょうどキノの旅と逆の立場にあると言える。完全な世界を求めるが故にそこには綻びが際立つ。また、「外」という目的地が設定されていることも大きな違いだ。自分の居場所であったはずの塔を見捨てていく主人公にとって旅はもはや途中経過でしかないのだろう。
旅と言うのは物語の主題としてはありきたりであるが、受け入れていくことと捨てていくことというスタンスの違いは興味深いと思った。

キノの旅―The beautiful world (電撃文庫 (0461))

キノの旅―The beautiful world (電撃文庫 (0461))


二四〇九階の彼女 (電撃文庫)

二四〇九階の彼女 (電撃文庫)


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