伝わらない

私は生演奏の音楽を聞いたことがほとんどない。 兄が高校生のときに、彼は吹奏楽部に所属していたのでそのイベントへ行ったのが最後だと思う。 録音なら何度でもやりなおしが出来て、編集でいいとこ取りも出来て、効果を付けることも出来る。 録音の方が圧倒的に高い完成度になるのは言うまでもない。 これは疑問の余地がない。

でも、もちろん音楽というのはそれだけのものではない。 映画音楽やドラマ音楽を聞いたときにその映画やドラマの印象と切り離せるだろうか。 物語を想起せずにいられるだろうか。 アイドルが歌う歌を、そのアイドルの人格と切り離して聞けるだろうか。 懐かしいメロディを聞いたときに自分の青春を思い返さずにいられるだろうか。

つまり、音楽に対する感動は物語に対する感動だとか、好きなアイドルへの感情だとか、自身の歴史だとかと強く結び付いている。 もちろん、生演奏ならばある場所へ集まるという体験そのものが情動を引き起こすということもあるだろう。

音楽を聞くというのは、そういった形にならない何かが音に足し合わされているので、誰かの音楽論評はだいたいどれもピンとこない感じがする。 結局、そういった感動は共に体験するしか伝える方法はないんだろう。

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